沈黙
奇異だ、一言であらわせば
何、
と首を傾げる先輩は一月会わないでいただけで、ころりとその姿を変貌させていた
黒装束にあらわと浮かぶ白い包帯が肌の露出すべき箇所すべてに巻かれてる。変わらないのは隙間に覗く鋭い眼光だけ、で
怪我をしたとは聞いていた、が、ここまでとは。とその様を見た瞬間はゾッと寒気すらしたのに
怪我は治った、と言わんばかりの快調な動きを見せるのであれれ、と思った。
先輩、怪我
「してるんですよね?」
軽い組み合い。容赦なく幹に飛ばされた逆さまの姿勢のままの俺を見下ろし余裕しゃくしゃくといったていで関節を鳴らす先輩に尋ねれば。
「ん? 治ってるよ」
コキッと大きく首を鳴らし、さらりと先輩は言う。
治ってるならその包帯は?と続けようとした言葉は
だけど口から出なかった
鋭い眼光が、俺の言葉を戒める。そうではないのに喉元をあの節張った大きな手のひらで絞められたかのような錯覚を覚えた。
一瞬の静寂、木の葉が風に吹かれ囁く音だけがあたりを取り巻く
次に口を開いたのは、彼だ
「いつまでそのまんまでいるの」
そう言われ、俺の喉は初めて呼吸をするように、むせた。先輩が覆面を歪ませ苦笑するのが分かった。慌てて身体を反転させて地に立ってみると脳に集められた血液は一気に降下しめまいを引き起こす。くらり、と足元をふらつかせると先輩は声を出して、笑った。むき出しの目元をくしゃりと歪めて。
終
【沈黙】
雑渡さんと後輩。部下くんではないです。捏造はなはだしい
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