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真夜中の海




真夜中の海を歩く

真夜中の海は深い

真夜中の海は黒い

真夜中の海は遠い

真夜中の海は近い

真夜中の海は











地球の裏っ面のようだ。




助手席で、視線はフロントガラス越しの海からそらさずにスカーがぼそりと呟いた。
詩人か、と俺が茶化すもその端正な横顔からは返事はなかった。
俺は口をとがらせ、しょうがないので目の前、堤防越しにひたすら広がる海をハンドルにもたれながら観察してみる。


深夜の海は真っ黒で空との境目すら分からない。時折水平線の区切りから白い波が泡立つ事で境目を認識できるくらいだ。
耳に響く波音があまりにもか弱く、心細く聞こえて、なぜだか胸の端っこがざわざわとした。

「黒ビール」
「は」

俺がこの空気をやぶるようにわざと明るめに呟いたらスカーは訳が分からないといった表情をしてこちらを見た。
「いや、ほらなんか黒ビールっぽくねえか」
波が泡で、海がビールだ。丁寧に説明する俺にスカーは冷たすぎる視線をよこし、鼻で笑った

言わなきゃ良かった、と俺は胸の内で後悔


「お前には情操教育がたりねぇな」
「ほっとけ」
スカーが呆れながらも、からかうように言う。
俺は不愉快な声音で答えながらも、先ほどの無表情とガラリと変わったいまの彼の笑顔に内心、安息していた。

なあ、
俺が言うとスカーはなんだと首を傾げた。
「地球の裏っ面、てどうゆうこと」
「ああ、そのまんまの意味」
だからどうゆう、と俺がさらに問いかけるも途中で遮られた
不服そうな俺にスカーは薄い唇をゆがませながら
「帰っか」
と一言。
俺の返事も待たずに座席を倒し、両腕を枕に寝の体制に入った。
こうゆう時はもう何を言おうと無駄だとわかっている

しかし悔しいのでささやかな反感をこめわざと聞こえるように溜め息を吐きつつ豪快にアクセルを踏み爆発音を響かせた。そりゃもう、真夜中の海すら起きてしまうんじゃないか、ってくらい豪快に。
なんだ俺も詩人じゃねえかと苦笑した。




ギアをバックに入れながら、ゆっくりアクセルを踏み、最後にちらりと海に視線をはしらせて、なにかに似てると気づく。それがなんだかはすぐ思い出せた

かつて二人、若い二人が閉じ込められていたあの場所に、似ている気がした。
遥か遠い過去に感じる。


真夜中の海は黒い
吸い込まれるな
必死にもがけ











end


あきゅろす。
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